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2本目のプルタブを開けた達夫は、ふっと誰かの視線を感じて手を止めた。ぐるりと部屋を見回すが、物のすくない部屋の中に異常は見つけられなかった。気のせいかと缶チューハイをあおって豆腐をつつく。
(やっぱりなんか、感じるな)
視線というか、気配というか。
「おい、誰だ」
ためしに声をかけてみる。返事なんて期待はしていない。しかしまさかの返事があった。
「あの、はい、すみません」
なんとも気弱な、か細い声が申し訳程度のベランダから流れてきた。怪訝な顔で立ち上がり、達夫は外をのぞいた。が、誰もいない。
「あの」
今度は耳元で声がした。
「おわあっ」
飛びのくと、そこにはいかにも傷心そうな、根暗の見本みたいに目が隠れるほど前髪の長い――けれどサイドはすっきりと短かった――青年が立っていた。
「なんだよ、おどかすんじゃねぇよ」
「はあ、すみません」
青年は申し訳なさそうに首を前に突き出した。どうやら頭を下げたらしい。まったくもって覇気の……というか、生気を感じられないヤツだと達夫は唇をゆがめた。こういうジメジメした人間を見ると、カラッと乾かしてやりたくなる。
「で、なんだ。おまえ、どっから入ってきた」
見たところ大学生か社会人になったばかりだろうと、見当をつけた達夫は説教する気まんまんで、座れと顎をしゃくって青年に命じた。青年は素直に正座する。達夫はその前にあぐらをかいた。
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