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「どこからと言われましても、そこからとしか」
青年が指さしたのはベランダである。
「はあ?」
片頬をゆがめた達夫は青年をジロジロながめた。ここは二階である。どうやってベランダから入ったというのか。
「あ。もしかして、あれか。そこのでっけぇ木を登って、入ったってのか」
窓の外には毎朝セミが大合唱する大木があった。それをよじ登れば、飛び移れないこともない。
「はあ、まあ、そんなかんじです」
「そんなもこんなもねぇだろう。だいたいなんだ、おめぇはよ。青っ白い幽霊みたいな顔しやがって」
「やっぱり、わかりますか」
「あ?」
「幽霊って」
「…………は?」
低い声で聞き返すと、青年は何故か照れくさそうに頬を掻いた。
「いま、なんつった?」
「ですから、幽霊だとわかりますか、と」
ん? と達夫は首をかしげて缶チューハイをグビリとやって、ごしごしと目を擦ると青年を凝視した。
言われてみると、青年の体はうっすらと透けている。
「疲れてんのかな」
だからふた缶くらいで酔ったのだ。やれやれと首を振って、若いと思っていたが中年だったかとガッカリしていると、青年の手が達夫の腕を掴んだ。
「うおっ、つめてぇ」
「すみません」
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