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青年がすぐさま手を引っこめる。達夫は信じられない面持ちで、自分の腕と青年とを見比べた。
「おめぇ、もっかい俺に触ってみろ」
「いいんですか」
「おう」
ほらっと達夫が腕を出すと、青年はおずおずと手を握った。ひんやりと冷気が達夫の肌に伝わる。
「ほーん。幽霊ってのは冷たいつうが、本当らしいな」
「信じてくれるんですか」
「信じるもなにも、目の前にいて触られてんだから、いると思うよりしかたあるめぇ」
フンッと鼻を鳴らした達夫に、ありがとうございますと青年は深く頭を下げた。
「で」
「はい?」
「俺んとこに化けて出て、どうするつもりだ」
「どう……とは」
「なんか未練があるとか、してほしいことがあるとか、そういうので出てくるのが相場じゃねぇのか」
青年がキョトンとする。
「なんだよ」
「ずいぶんと、話のはやい方だなと驚いているんです」
「おう、まあな。ダラダラと余計な話をすんのは苦手なんだよ。用事はさっさと終わらせてぇ」
ほら言えとうながすと、幽霊青年はモジモジした。
「はっきりしねぇヤツは嫌いだ。追ん出すぞ」
「ああっ、えっと……あのですね。僕はその、大正時生まれの人間でして」
「で?」
「兵役に取られて、人殺しをするのが嫌で、そこの木で首をくくったんです」
「はぁ。そいつぁ度胸がいったろう」
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