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見た目より根性があるんだなと、達夫は青年を見直した。
「それほどでも。戦争だからと言って、だれかを殺すよりはずっとマシですから」
「見上げた根性だ。そんで? その大正生まれの大先輩が昭和生まれの俺になんの用件だ。――ああ、あれか。戦争っつたら昭和のはじめのころのヤツか。するってぇと、兄弟とか惚れた相手とか、そのへんがまだ生きてる感じだな? で、心残りを伝えてほしいとかそういうアレだろう」
自信満々で予測した達夫に、青年はあっさりと首を振った。
「なんでぇ。違うのか」
「ええ。心残りがあるのはたしかですが」
意味深な目を向けられて、達夫は気軽に「そりゃ、なんだ」と問うた。
「その……好みの相手と夜の遊びをしたかったんです」
「はぁ? エロいことをしてぇって……兄さん、アレか。童貞か」
みるみるうちに青年が真っ赤になって、幽霊も赤くなるのかと達夫は感心した。
「そんで、兄さんの好みの女を見つけてほしいってこったな。この、魅力たっぷりな俺なら簡単に引っかけられるだろうと思って」
グッと胸を前に出した達夫に、いえいえと青年は両手を振った。
「好みというのは、あなたなんです」
手のひらで上品に指さされ、達夫は目をパチクリさせた。
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