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「そいつぁ、あれか。その、そっちの趣味か」
「はい、そうです」
「ふうん」
缶チューハイの残りをあおって、達夫は考える。江戸時代には普通だったらしいし、そう簡単に習慣や風俗というものは消え去らないだろうから、幽霊青年が生きている時代にも普通のこととして残っていてもおかしくないな。
「で。俺が好みだから、心残りを解消してもらえねぇかと出てきたわけか」
「毎夜、大きく窓を開けて無防備に眠っている姿を見ていると、たまらなくなりまして」
「ふうん。――幽霊ってのは、強気なヤツと犬と、エロいことが苦手って聞いたことがあるが、例外もあるんだなぁ」
深くは考えず、達夫は青年を無遠慮に観察した。戦争で兵役に取られ、誰かを殺すくらいなら自分の命を絶つと決めた男が、童貞を悔やんで成仏できないままとは。
「ずいぶんと切ねぇっつうか、やるせねぇモンだなぁ」
しみじみとつぶやいた達夫は、さきほどのひんやりとした心地よさを思い出して、よしっと膝を打った。
「そんなら俺が、ひと肌脱いでやろうじゃねぇか」
「いいんですか?」
「いいも悪いも、したいから出たんだろう。男相手ははじめてだが、やれねぇこたぁねぇだろう。いいぜ、相手してやる」
「ありがとうございます」
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