エレベーターの定員

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エレベーターの定員

 会社に意地悪な先輩がいる。  表立って罵ってはこないけれど、仕事に必要な報告を忘れたフリでしなかっり、書類をゴミと間違えたフリで捨てようとしたり、あれこれ嫌がらせに余念がない。  中でも出勤時に多いのがエレベーターでの嫌がらせで、先輩は必要もないのに早めに来て、エレベーターホールでスマホを弄るふりをしている。そして私が現れるなりエレベーターに乗り、さっさと扉を閉めて八階のオフィスフロアへ向かうのだ。  エレベーターは一基しかないから、往復を待たされるのは地味にイラつく。だから抗議したこともあるけれど、気のせいと言われたり、後輩にくせに来るのが遅いとか、話を違う方向に持っていかれたこともあった。  だからエレベーターに関しては、もうそういうものだと思って使用していたが、その朝は勝手が違っていた。  いつものように出社すると、こちらもいつも通り、先輩がエレベーターの前にいるのが見えた。でも、上階から降りてきたエレベーターには、文字通り溢れそうな人数の人が乗っていたのだ。  今朝に限って、どうしてこんなにたくさんの人が上の階から降りてくるのか。呆気にとられる私を尻目に先輩がエレベーターに乗ろうとする。でも、上から来た人達は何故か誰一人として降りないから、当然というか案の定というか、定員オーバーのブザーが鳴った。  これではエレベーターは動かない。だから見送るべきだ。そう言おうとした瞬間、何故かブザーの音が消え、エレベーターの扉が閉まった。
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