猫の嫁取り

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 真剣な卓弘の視線に胸がギュウッと絞られて、目の奥が熱くなる。 「泣くなよ」 「だって、しかたねぇだろ」  うれしすぎた僕の返事はケンカ口調の涙声だった。 「ったく」  苦笑交じりに吐き捨てた卓弘が、僕の頭をグシャグシャ撫でる。ゆっくり肩に引き寄せられて、僕は卓弘にしがみついた。 「幸助も俺と結婚したがってるってわかって……よかった」  心の底からの安堵に、僕はますます泣き止めなくなった。 「天気雨が狐の嫁入りってんなら、降りそうで降らない天気は、犬の嫁入りってところか」  冗談めかして僕の背中をポンポン叩く卓弘は、照れくさくて仕方がない顔をしているだろう。それを見たいのに、卓弘のぬくもりから顔を上げたくなくて、僕は卓弘の肩をうれし涙で濡らし続けた。  それを言うなら、どっちつかずな態度ではぐらかす、素直だけれど素直じゃない猫のほうが曇りっぽいだろう。だからこれは、僕にとっては猫の嫁取りだ。  そう心の中で言いながら、僕は子どもみたいに泣きじゃくって、よろこびを卓弘に伝えた。 -fin-
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