猫の嫁取り

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猫の嫁取り

 そのニュースを、僕は卓弘と過ごしているときに見つけた。  スマートフォンの画面から卓弘に目を移すと、卓弘はフローリングの床にペタリと座り込んで、ぼんやりとベランダの向こうをながめている。  やわらかそうなこげ茶のクセ毛と、まぶしそうに細められた目。ちょっと笑っているように見える口角と、細い顎。そこから伸びる首は長くて、肩幅は広いけど身幅は薄くて。  鹿野卓弘はモデルみたいな、そして猫みたいな青年だ。  そして僕はどちらかというと筋肉質で。だけど卓弘よりもすこし背が低くて、髪は黒くてまっすぐで、頬のあたりはまるみがあって、年よりも下に見られる。  僕こと水沢幸助は、ヤンチャという言葉が当てはまる、卓弘いわく犬みたいな男らしい。  視線を追うと、いまにも降りだしそうな、ぶ厚く重たい灰色の雲が広がっていた。開いている窓からは、生ぬるいよりすこし暑い湿った空気が室内に入り込んで居座っている。  なにもしていなくても、勝手に薄い膜みたいな汗が毛穴からにじみ出る梅雨の、よくある天気と空気だった。けれど僕にとっては、衝撃的な日になった。 『ドイツで同性婚が合法化されました』     
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