猫の嫁取り

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 ピコリンと画面の上部に表示されたニュース情報。それは僕にとって、うれしくてうらやましいものだった。――卓弘はどうだろう。これを知ったら、どんな反応をするのかな。  友達として3年。  恋人として5年。  ざっくり計算すれば、そのくらい一緒にいて、傍にいることが当たり前になっている。結婚なんてどうせ無理だからと、僕は卓弘に冗談でも「結婚」という単語を向けたことがない。卓弘も冗談めかしてすら言ったことがない。  この国は、そういうものに厳しい国だから。  だからちょっと、いや……わりと本気で、ドイツに移住したいなって思ってしまった。  このニュースを見せたら、卓弘はどんな反応をするだろう。  うらやましがる?  興味がなさそうにする?  俺たちもしようかって言う?  そのどれもがありそうで、聞きたいけれど聞くのが怖い。 「なあ、卓弘」 「ん~?」  気だるそうに卓弘が返事をする。目は空を見たままだ。 「なんか、飲む?」  そのために僕はキッチンに来たのだった。そして冷蔵庫を開ける前に、あのニュースが配信された。  ニュースと、それを知った卓弘の反応はどうなるかなと考えながら、当初の予定通りの言葉をかけた僕に、卓弘は頭をゆらゆら動かした。どうしようかなと考えているときの仕草だ。 「水」 「なんだ、それ」 「じゃあ、なんでもいい」 「わかった」     
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