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卓弘の頬に手を添えて、鼻の頭にキスをする。
「いやじゃない。そうじゃないんだ」
「じゃあ、なんだよ」
どうしようもなく卓弘が好きだと自覚した瞬間、さっきのニュースを思い出して胸が熱くて痛くて苦しくなっただけなんだ。
「大丈夫だから」
「それじゃあ、わかんねぇよ」
「いいから……抱けよ」
「泣いた理由を、まず言えよ」
ブスッとした卓弘の不器用な気遣いにクスクス笑う。わけのわからない卓弘は下唇を突き出した。
「なんだよ。笑ってごまかすなよ」
「そうじゃない」
「じゃあ、なんだよ」
どうしよう。
自分でも感情にあてはまる言葉が見つかっていないのに、卓弘を納得させられるわけがない。卓弘は気まぐれで好き勝手しているように見えて、その実きっちり相手を把握しているんだから。
だから、適当にごまかすなんてこともできない。
「あ、ええと」
僕が言葉を探す時間を、卓弘はいつもくれる。それがどれほど優しいことか、僕は知ってる。大切にされている証拠だってことを、僕は卓弘から教えられた。
「ちょっと、思い出して」
「なにを」
「ニュース」
「ニュース?」
「さっき、スマホに入ったんだ」
「どんな」
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