猫の嫁取り

6/9
前へ
/9ページ
次へ
 卓弘の頬に手を添えて、鼻の頭にキスをする。 「いやじゃない。そうじゃないんだ」 「じゃあ、なんだよ」  どうしようもなく卓弘が好きだと自覚した瞬間、さっきのニュースを思い出して胸が熱くて痛くて苦しくなっただけなんだ。 「大丈夫だから」 「それじゃあ、わかんねぇよ」 「いいから……抱けよ」 「泣いた理由を、まず言えよ」  ブスッとした卓弘の不器用な気遣いにクスクス笑う。わけのわからない卓弘は下唇を突き出した。 「なんだよ。笑ってごまかすなよ」 「そうじゃない」 「じゃあ、なんだよ」  どうしよう。  自分でも感情にあてはまる言葉が見つかっていないのに、卓弘を納得させられるわけがない。卓弘は気まぐれで好き勝手しているように見えて、その実きっちり相手を把握しているんだから。  だから、適当にごまかすなんてこともできない。 「あ、ええと」  僕が言葉を探す時間を、卓弘はいつもくれる。それがどれほど優しいことか、僕は知ってる。大切にされている証拠だってことを、僕は卓弘から教えられた。 「ちょっと、思い出して」 「なにを」 「ニュース」 「ニュース?」 「さっき、スマホに入ったんだ」 「どんな」     
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90人が本棚に入れています
本棚に追加