猫の嫁取り

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 簡単に説明ができるものなのに、僕の喉はそれを拒絶する。察した卓弘が僕から離れて、僕のスマートフォンを開いた。通知一覧を確認する卓弘を観察する。  どんな反応をするんだろう。  卓弘は「うん」とも「ふん」とも取れる鼻息を漏らして、ふらっと寝室に入った。去り際の横顔からは、なにを感じたのか読み取れなかった。  起き上がって追いかけたい気持ちと、このままじっと待っていたい気持ちにはさまれて、僕はどんよりと重たい雲に視線を投げた。  寝室でなにかしている物音を、聞くともなしに聞きながら、はっきりしない空に眉根を寄せる。  薄暗く重たいのに、白い部分がやけにまぶしくて目に痛い。  そうしていると卓弘の足音が僕の傍に戻ってきた。 「幸助」  肩をつつかれて卓弘に顔を向ける。仕草で座れと命じられ、体を起こしてあぐらをかいた。 「手」 「手?」  うん、と卓弘が右手を出してくる。その手のひらに右手を乗せると、違うと言われた。 「反対」  よくわからないまま言うとおりにする。よしよしと頬をゆるめた卓弘が、僕の薬指を持ち上げて――。 「え」  銀色に光るそれは、卓弘がたまにつけているシルバーリングだった。僕の左手薬指におさまったそれを見て、卓弘がニンマリする。 「俺のな」 「は?」 「だから、幸助は俺のだって言ってんだよ」 「なんだよ、それ」 「考えろよ」 「考えろって……あ」     
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