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卓弘の目じりがわずかに赤い。これって、もしかして――。
「婚約指輪のつもりか?」
「違ぇ」
半眼でにらまれた。
「じゃあ、なんだよ」
「決まってんだろ。結婚指輪だよ」
「はぁ?」
すっとんきょうな声が出た。
「プロポーズなんて、毎日してるようなもんだろが」
「えっ。そうなのか?」
「そうなんだよ。なんだよ……幸助は違うのかよ」
「いや……えっ? えぇ」
どんどん卓弘が不機嫌になっていく。思考が激しく駆けめぐる。毎日プロポーズしているようなもんって、それってなにを指して言っているんだ?
「あ」
もしかして。
「僕の飯、ずっと毎日食ってたいとか、なんか、そういうアレ……卓弘、そんな気持ちで言ってたのか?」
ただ単に、うまいって遠まわしに言っているだけかと思ってた。
フンッと不機嫌に鼻を鳴らした卓弘が、僕の左手を持ち上げて指輪に唇を押し当てた。
「制度としては、この国はまだまだだろうけどさ……けど、俺はそのつもりだから」
「え」
「結婚がだめなら、養子縁組とかしてさ……そんで家族になればいいって考えてる」
「……卓弘」
「子どもがほしいんなら、引き取って育てればいい」
「そんなこと、考えてたのか。――いつから」
「もう、ずっと前から」
知らなかった。
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