【短編】愛は僕を救わない。

放課後の教室で

「私の事、汚い女だと思っているんでしょ？」

「ごめん……、何の話かよく分からない。」

早口でそう言うと結人はスマホを取るために少し屈んでいた腰を立ち上がらせた。そしてそのまま教室の入り口へ向かおうとすると、

「逃げるの？」

「別に逃げるとか……、ほんと悪いけど今日、急いでーーー」
「私と秋川の関係知ってるよね？」

結人の声に被せて一美が言う。その苛立ちも合わせて。

「だから何？」

結人は諦めて自身の席に着いた。

今となっては癖になりつつある小さな溜め息をつきながら。

「秋川には婚約者がいる。そう、来月この学校を辞める予定の国語教師とーーー春に結婚するわ。」

「ふうん。」

その情報を結人も知ってはいたが何となく知っているとも知らないとも言わなかった。

「恐らく私は捨てられるわ。」

「はぁ……。」

「あの人とは体だけの付き合いなの。」

「へぇ……。」

「私はそれをわかった上で抱かれているの……昨夜もね。」

結人はどう頭を巡らせても一美に何と答えることが正解なのか全く分からないでいた。