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部屋に入るとさっき万由香のBARではカウンター下に無造作に投げた鞄を行儀よく定位置に置く。
そして制服のブレザーもハンガーに掛けてから所定の位置へ。
恐らく明日の朝には丁寧に手入れされシワ一つない状態のブレザーが掛けられているだろう。
結人はクローゼットの中から淡いピンク色した綿シャツにチノパンを品よく合わせると座り心地の良い一人掛けソファに身を沈める。
それは無機質で飾り気の無い殺風景なこの部屋で結人が寛げる唯一のスペースだ。
「ふう……」
結人は何も考えないようにした。
いや、何も考えたくなかった。
数学教師の秋川秀が都合よく快楽だけを求めていることも。
計算高い同級生牧野一美が【次】に向けて学校帰り結人に仕掛けてきた陳腐な猿芝居も。
そして何よりも両親の前では行儀よく振る舞いその影で以前、英語の実習教師としてやって来た秋川秀の妹である万由香と男女の一線を越えた関係であることも、
何も考えたくなかった。
今だけは何も考えたくなかった。
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