第一話 陰摩羅鬼-オンモラキ-

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物心がついた時から普通の人には見えない―――――妖怪、と呼ばれる類いが久米野(くめの)ゆこには見えていた。 彼らにとって自分たちの姿が見える人間はいじり甲斐があるらしいから、ゆこは毎日のように妖怪に悩まされていた。 困った妖怪たちの悪口を聞いてくれたのは、父の杏輔(きょうすけ)だけ。 妖怪が大嫌いなゆこに対して、杏輔は妖怪に好意的だった。 父も見える人なのに。 *** ゆこの唯一の理解者だった父が亡くなってから九年が経とうとしていた。 自室の縁側で、ゆこはいつも父の膝に泣き縋っていた。 昔は「今日もね、妖怪がいじわるしてきたの!」と悪口を言いたい放題言っていた。 それができなくなってからは縁側でブツブツと言うようになっている。 今日も学校からの帰宅途中で妖怪に追いかけられて参った。 お風呂上がりは特にストレス発散にもなる。冷蔵庫で冷やしておいたコップ一杯の水を飲みながら吐くのも、またいい。 飲み終わった頃に録画していたテレビ番組を見始めた。ゆこは机からノートを取り出し、ソファーの上で正座をする。画面にはメイド特集が映っていた。 「今日は秋葉原のメイド喫茶に来ています! 早速中に入っていきましょう!」 女性司会者が元気よく進行し、メイドやお店の魅力、他では聞けない秘密などを紹介する。最初は興味本位で五分くらい観たらやめるつもりだったのに今ではメモを取ることが癖になっている。それだけでは飽き足らず、手作りのメイド服を作るようにもなった。 部屋のクローゼットの中には、様々なデザインの手作りメイド服が並ぶ。 壁のハンガーにも黒地のワンピースに白いエプロンをつけたメイド服がある。 これは近所に念願のメイド喫茶「アリスの森」ができたからアルバイトを始めようと思って作ったものだ。 といっても面接は来週。まだ働くことが決まってもいないのに作ってしまったのだ。 「まあいっか。お父さん、メイド喫茶で働く娘を許してね!」 合掌して棚の上に飾ってある写真立てにウインクをする。 写真の中の父は俳優志望でもあったらしいから、娘からみても格好良いと思う。教師であった父は学校の生徒からかなりの人気だったらしい。そんなところは自慢できる。
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