第2章 南の島へ

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第2章 南の島へ

そうして現在に至るわけで。 私と圭ちゃんは荷物をホテルに預けて、 テニアン島の中心であるサン・ホセ市街を 散策している。 テニアンはサイパンの南西に位置する 静かで素朴な島だ。 人口は3000人くらい。 街中の人影はまばらだが ごくたまーに観光客ともすれ違う。 中には日本人らしき人もいた。 車もそれほど多くない。 信号もタクシーも公共交通機関もないと ガイドブックに書いてあった。 中心の通りにはブロードウェイや 8thアベニューなどマンハッタンに 因んだ名前がつけられている。 市街にはスペイン統治時代に建てられた ベルタワーと呼ばれるサン・ホセ教会の 鐘楼や、日本統治時代の大規模な製糖工場の 事務所跡などがあるらしい。 有名な観光地としては。 古代タガ王朝の遺跡や王様専用の ビーチだったタガビーチ。 それから潮吹き海岸・ブローホール。 海の透明度は高く、テニアンブルーと 呼ばれていてとても美しい。 フレイムツリーと呼ばれる真っ赤な木や 濃いピンク?紫?のブーゲンビリア、 白いプルメリアの花も素敵だ。 プルメリアの花びらは通常5枚だが たまに6枚のものもあるらしい。 6枚のプルメリアは縁起がよく、 見つけると幸せになれると言う。 残念ながら、私はまだ見つけられていない。 しかしこの美しいテニアンは 戦争の爪痕を色濃く残す島でもある。 錆びついた砲台、銃弾の跡が残る建物、 あちらこちらに佇むお墓や慰霊碑。 島の北部にあるハゴイ飛行場は 戦前に日本が建設し、後にアメリカ軍の 施設になった。 そしてここでB29に原爆が搭載され、 広島や長崎に向けて飛び立った。 この美しい空や海は 多くの人々の悲しみも見てきた。 祖父もこの島に降り立ったのだろうか? 「えっ??」 誰かが後ろからいきなり私の右手を掴んだ。 驚いて振り向くと、1人の少年が 私の手を握りしめていた。 少し伸びた黒髪に浅黒い肌。 年は10歳くらい? おそらく現地の子だろう。 「な、なに?」 戸惑っている私を見上げ、その子は言った。 「Please come with me!」 英語はわからないが、これくらいなら 学校で習った程度でも何となくわかった。 僕と一緒にきて! きっとそう言ってるのだろう。
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