第2章 南の島へ

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夕食を済ませてレストランを出た頃には、 もうだいぶ日が傾いていた。 通りの人影も日中以上に まばらになっている。 「そろそろホテルに戻るか。」 「うん。」 ホテルまでは歩いて10分位。 私は圭ちゃんと今日見た 遺跡のことなどを話しながら歩いていた。 ホテルに着き、中へ入ろうとした時。 目の前に現れたのはあの少年だった。 少年は私に縋りつき、必死な瞳をして 英語で何か言っている。 でもやっぱり<一緒に来て>しか わからない。 「行こう。」 圭ちゃんが間に割って入り、 私の肩を抱いてホテルに入った。 少年は悲しそうに私達を見送った。 「あの子、ずっと待ってたのかな。」 最上階の部屋に戻ってからも 私は少年のあの瞳が忘れられなかった。 「そうかもしれないな。」 圭ちゃんもかなり気になっているようだ。 彼は他人に対して、まして子ども相手に さっきのような態度を取る人ではない。 しかし静かで素朴な島とは言え、 ここは右も左もわからぬ外国。 圭ちゃんは私を守る為、 神経を尖らせているのだ。 その優しさが心に染みる。 私は感謝をしつつ、会話を続けた。 「ホテルだっていくつかあるし、 サイパンから日帰りで来てる可能性も あるのにね。どうしてここだって わかったのかな? それになぜそんなにしてまで 私達を待ってたんだろう?」 「わからない。まぁ、現地の人なら 方向とかでどこのホテルかくらいは 見当がつくのかもな。 あー、もっと英語を勉強しときゃよかった。」 「そうだね。明日もいるかな? もしまた会ったらどうしよう?」 「うーん。まぁ、ホテル付近なら スタッフに通訳を頼めるかもしれないな。」 「それいいね。やっぱり何を伝えたいのか 知りたいし。」 「そうだよな。もしもまた会ったら なんとか意思疎通ができるように考えてみよう。」 「うん!」 私達はそう決めた。 気持ちがふっと軽くなった。
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