第2章 南の島へ

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少年は私の前に立ち、じっと私の目を見た。 そして懸命に、発するひと言ひと言を 確かめるようにしながら、私にその言葉を 告げた。 「・・・タ、エ・・・アイ・・タ・・・イ・・・。」 今、何て? タ、エ・・・? 「おばあちゃんの名前よ!」 私は圭ちゃんと顔を見合わせた。 少年はたどたどしいながらも、 必死に話し続けた。 「ナ、オ・・・ヤ・・アイ・・・タ、イ・・・ サ・・・チ、ヨ・・・アイ、タ、イ。」 次は父と幸代おばさんの名前だった。 そして。 少年は最後にその名前を口にした。 「ショ・・・イ・・・チ、ロウ・・・。」 「おじいちゃんだわ・・・。」 信じられなくて、思わず言葉が詰まる。 まさかここでその名前を 聞くことになるなんて思いもしなかった。 少年はそこまで言うと再び英語で 「Please,come with me!」と走り出した。 「行こう、圭ちゃん! この子、おじいちゃんのこと何か知ってるのよ!」 「待てよ、静波。知ってるったって、 この子いくつだよ?戦争中の話だろ? おかしいだろ?とりあえずホテルに戻ろう。 誰かにに通訳してもらってからでも遅くない。」 「だってもうあんなに遠くに行っちゃってるよ? お願い、圭ちゃん。」 少年は次の曲がり角で佇み、手招きをしている。 「仕方ないな。その代わり、ちょっとでも 危ないと俺が判断したらすぐ逃げるぞ。いいな?」 「うん、わかった!」 圭ちゃんの苦渋の決断にそう返事をして、 私は走り出した。
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