第1章 思い

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「やっぱり暑いな。さすが南国!」 大きなスーツケースを引いた圭ちゃんが 眩しい日差しに目を細めながら言った。 そして少し後ろを歩く私を振り返る。 「荷物、大丈夫か?静波(しずな)。」 「大丈夫!すぐに車に乗るでしょ?」 「そうなんだけどさ。お前ちっちゃいから、 俺と同じスーツケースなのにやたらとでかくて 大変そうに見えるんだよな。」 9月に結婚式を挙げた夫・圭ちゃんこと 佐山圭とは、身長差が30センチくらいある。 「圭ちゃんが大き過ぎるのよ。180センチも いらないでしょ?少しでいいから分けてよ。」 「分けてやれるもんならな。」 圭ちゃんは宿泊するホテルからの 迎えの車を見つけて、私の荷物を先に トランクに入れてくれた。 ここはテニアン国際空港。 サイパンからチェロキー機に乗り換えて 15分程のテアニン島の玄関口だ。 私達はハネムーンの為にサイパンと、 オプショナルツアーでテニアン島へやって来た。 日程は4泊5日。 最初の2日でテアニン島を巡り、 残りはサイパンで過ごす予定だ。 今日は12月29日だから およそ3ヶ月遅れのハネムーン。 当初は結婚式を挙げてすぐにハワイへ 出かける予定だった。 しかし圭ちゃんの仕事の都合で、長期の休みが取れなくなってしまった。 それならお互いに気兼ねなく休める年末年始に 延期しようと言うことになったのだ。 日程はともかく、なぜ行き先まで 変更になってるのかって? もちろんただの気まぐれではなく、 それなりの理由がある。 話は10月中旬まで遡る。 その日の札幌は初雪が 降るのではないかと思うほど寒かった。 仕事を終え、地下鉄を待っていると 母から電話が来た。 祖母が危篤との知らせだった。 肺炎で3日前から入院をしていたが 状態は悪くなく、近々退院できる はずだったのに、予期せぬ急変。 急いで駆けつけた病院で、 祖母は眠るように息を引き取った。 私の結婚式から僅かひと月後の事だった。 「静ちゃん、おめでとう。幸せにね。」 そう言ってとても喜んでくれた 祖母の笑顔を思い出す。 とても可愛がってくれたのに 私は何も祖母にお返しができなかった。 私は悲しくて一晩中泣いた。 圭ちゃんはずっとそばにいてくれた。
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