第2章 南の島へ

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ウナイはそっと目を閉じて、 懐かしそうに語り始めた。 「私が10歳まで住んでいた村の近くに 日本軍の宿舎がありました。 宿舎は立ち入り禁止でしたが 私は秘密の通路を知っていたので、 友達とよく遊びにいってました。 日本兵のことを悪く言う人もいました。 しかし彼らはみんな礼儀正しくて優しかった。 時間があれば私達と遊んでくれました。 きっと祖国に残してきた自分の子どもと 私達を重ね合わせていたのでしょう。 そしてショウイチロウもそこにいました。」 ショウイチロウ、と言う名前に 私の胸が波打った。 写真でしか知らない祖父が 確かにここで生きていたのだと実感する。 「私はショウイチロウが大好きでした。 彼は私に時計の直し方や日本の昔話、 日本の歌を教えてくれました。 軍服の内ポケットに大切に持っている 宝物も見せてくれました。 その懐中時計と写真です。 そしていつも言いました。 タエに会いたい。ナオヤに会いたい。 サチヨに会いたい。早く日本に帰って、 みんなに会いたい、と。」 日本とテニアン島。 遥か遠く離れていても 祖父と祖母の思いはひとつ。 あなたに会いたい。 ただそれだけ。
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