第2章 南の島へ

11/19

28人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
ウナイが言葉を切った。 その苦悶の表情から、 その時、彼がどれくらい酷いものを 目にしたのかがわかる。 「恐らく、たくさんの日本人が 集結していたのでしょう。 そこを空襲や迫撃砲で狙われ、 敵兵に襲われたのです。 地面には大きな穴が開き、 周囲にある死体は手足が揃っていれば いい方で、爆撃でバラバラになったもの、 人の手で切り刻まれたもの、 頭部のないもの、肉片だけのもの・・・。 もう言い表せないほど凄まじい状況でした。 私はとても怖かったけれど、 ショウイチロウを見つけたい一心で 死体の中を歩き回り、必死に探しました。 しかし彼とわかるものは 見つけられませんでした。 彼はもう人の形をしていないのだろうか。 いや、どこかで生きているのかもしれない。 そう考えている時、草むらから物音が 聞こえました。私は慌てて、 広場の奥の急斜面に身を隠しました。 幸い、その物音は野生動物か 何かだったようでした。 私は立ち上がろうとして足を滑らせました。 少し滑り落ちましたが、僅かに平らな場所が あったお陰で何とか踏みとどまりました。 ホッとした所で、生い茂った草の中から 人の足が出ているのを見つけました。 草を掻き分けてみると、 数人が倒れていました。 その中に、ショウイチロウはいました。」 私は膝の上でギュッと両膝を握り締めた。 血の気が無くなるほど、強く。 「ショウイチロウは地面のくぼみの中に いました。迫撃砲の衝撃で吹き飛ばされ、 転げ落ちたのでしょう。 比較的きれいな姿をしていましたが、 腹部や首筋に何かが刺さったのか 軍服は血まみれで、既にその体は固くなり、 息をしていないことは明らかでした。 しかし私は彼の死が信じられず、 名前を呼びながら体を揺すってみました。 もちろん返事はありませんでした。 ショウイチロウは右手を軍服の内ポケットに 入れたまま息絶えていました。 腕は固くてもう動かせなかったので、 私は破れた軍服をめくってみました。 彼はその手に写真と懐中時計を しっかりと握りしめていました。 咄嗟に守ったのでしょう。 それらは彼にとって、 命よりも大切なものでしたから。」
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加