第2章 南の島へ

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チューロは早足で前を歩いたり 跳ねるように走ったり、 時に私と圭ちゃんと手を繋いだりしながら 道案内をしてくれた。 サン・ホセの街中を抜け、私達が宿泊している ホテルの前を通り過ぎる。 それからまたしばらく歩くと、 左側に上へと続く石段があった。 前を歩いていたチューロが、 手招きをしてから登り始めた。 鬱蒼とした木々に囲まれた 石段はそれほど急ではないが、 軽々と登っていくチューロに ついていくのはなかなか大変だ。 チューロは時々立ち止まって 息を切らしている私達を待ってくれた。 ようやく石段を登り終えると、 そこは楕円形の広場だった。 ここで凄惨な出来事が起きたとは 思えないほど、厳かな静けさに 包まれている。 チューロは広場を突っ切って、 奥の方へ駆けていった。 私と圭ちゃんも後に続いた。 広場には色褪せた鳥居があり、 更に上へと参道が伸びている。 今登ってきた石段より緩やかな勾配の先には、 シーサーのような二体の白い石像と、 祠のような小さな建物が見えた。 鳥居の前を通り過ぎ、 チューロは広場の向こう端で 私達を振り返って下の方を指差した。 あそこだよ。 彼の瞳がそう言った。 そこは背の高い草がびっしりと生えた 急な斜面だった。 数メートル下に、 僅かに突き出した平らな場所があるようだ。 チューロが示したのはその辺りだった。 もちろん上から覗き込んでも 祖父が横たわっていた地面の窪みを 窺い知ることはできない。 だけど。 祖父と祖母とウナイ、 それぞれの思いがひとつに繋がって 私達は確かにここへ導かれた。 私はバッグから真珠の帯締めを取り出した。 掌に乗せて、指先でそっと撫でる。 圭ちゃんを見上げると、 微笑んで小さく頷いてくれた。 そして。 私は真珠の帯締めを斜面に向かって投げた。 帯締めは音も立てず、青い草の海に 吸い込まれていった。 おじいちゃんは、 ずっとここで待っていたんだね。 随分、時間はかかってしまったけど 届けにきたよ。 おじいちゃんのことを 1日たりとも忘れずにいた おばあちゃんの心を。 しっかりと受け取ってあげてね。 圭ちゃんと2人、目を閉じて手を合わせた。 静かな時間が流れる。 目を開けた時、私達を包む空気が 少し違っているように感じたのは 気のせいだったのだろうか?
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