28人が本棚に入れています
本棚に追加
日暮れが近づいた頃、
私達とチューロは来た道を戻り、
街へと向かっていた。
道沿いに建物がポツポツと見え始める。
ここまで来るとホテルはもうすぐだ。
「チューロ?」
私は立ち止まり、周囲を見回した。
さっきまで後ろを歩いていたはずの
チューロの姿が見当たらない。
「チューロ!」
圭ちゃんが心配そうに呼んだ。
するとチューロが
少し前に通り過ぎた右手の建物の陰から
飛び出すように走ってきた。
そして私の前に来て、
後ろに隠していた物をスッと差し出す。
それは一輪のプルメリア。
白い花びらは、6枚。
幸せを呼ぶ美しい花。
「私に?」
自分を指先す私に、
チューロは大きく頷いてみせた。
そっと花を受け取り、思わず微笑む。
「とても綺麗・・・。
ありがとう、チューロ。Thanks.」
私はチューロを抱きしめた。
耳元でヘヘッ・・・と
チューロが嬉しそうに笑った。
そこから5分程歩き、ホテルの前に着いた。
「Thanks.」
圭ちゃんがそう言いながら
チューロと握手を交わす。
続けて私も小さな手と握手をした。
カタコトの英語しか知らない私達は、
感謝の気持ちを繰り返し
そんな風に表現するほかなかった。
「Can I see you again?」
また会える?
チューロがつぶらな瞳で尋ねた。
圭ちゃんが「Yes・・・some day.」と、
何とか絞り出した英語で答える。
「OK!See you!」
チューロは満面の笑みを浮かべて
帰路へと走り出した。
少し行った所で、再び振り返って叫ぶ。
「Good luck!」
それからも何度か立ち止まっては
大きく手を振り、やがてその姿は
曲がり角の向こうに消えた。
夕焼けが空を赤く染める中で、
私と圭ちゃんも何度も手を振り返した。
遠い昔、チューロと同じ年頃だった
ウナイの天真爛漫な笑顔に
祖父はどんなに慰められたことだろう。
そして最後の日、今の私達のように
小さな背中を見送りながら、
きっと心の中で祈っていたに違いない。
どうか元気で。
どうか幸せに。
いつかきっと、また会える日まで。
最初のコメントを投稿しよう!