第2章 南の島へ

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日暮れが近づいた頃、 私達とチューロは来た道を戻り、 街へと向かっていた。 道沿いに建物がポツポツと見え始める。 ここまで来るとホテルはもうすぐだ。 「チューロ?」 私は立ち止まり、周囲を見回した。 さっきまで後ろを歩いていたはずの チューロの姿が見当たらない。 「チューロ!」 圭ちゃんが心配そうに呼んだ。 するとチューロが 少し前に通り過ぎた右手の建物の陰から 飛び出すように走ってきた。 そして私の前に来て、 後ろに隠していた物をスッと差し出す。 それは一輪のプルメリア。 白い花びらは、6枚。 幸せを呼ぶ美しい花。 「私に?」 自分を指先す私に、 チューロは大きく頷いてみせた。 そっと花を受け取り、思わず微笑む。 「とても綺麗・・・。 ありがとう、チューロ。Thanks.」 私はチューロを抱きしめた。 耳元でヘヘッ・・・と チューロが嬉しそうに笑った。 そこから5分程歩き、ホテルの前に着いた。 「Thanks.」 圭ちゃんがそう言いながら チューロと握手を交わす。 続けて私も小さな手と握手をした。 カタコトの英語しか知らない私達は、 感謝の気持ちを繰り返し そんな風に表現するほかなかった。 「Can I see you again?」 また会える? チューロがつぶらな瞳で尋ねた。 圭ちゃんが「Yes・・・some day.」と、 何とか絞り出した英語で答える。 「OK!See you!」 チューロは満面の笑みを浮かべて 帰路へと走り出した。 少し行った所で、再び振り返って叫ぶ。 「Good luck!」 それからも何度か立ち止まっては 大きく手を振り、やがてその姿は 曲がり角の向こうに消えた。 夕焼けが空を赤く染める中で、 私と圭ちゃんも何度も手を振り返した。 遠い昔、チューロと同じ年頃だった ウナイの天真爛漫な笑顔に 祖父はどんなに慰められたことだろう。 そして最後の日、今の私達のように 小さな背中を見送りながら、 きっと心の中で祈っていたに違いない。 どうか元気で。 どうか幸せに。 いつかきっと、また会える日まで。
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