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その日の夜中、私はふと目を覚ました。
部屋にはベランダから
月の光が降り注いでいて、
物の輪郭がうっすらと浮かび上がって見える。
私は隣で寝息を立てている
圭ちゃんの寝顔を見つめた。
彼を起こさないように、そっとベットを抜け出す。
ベランダのそばにある小さなテーブルの上には
花瓶代わりのコップに挿したプルメリア。
チューロがくれた幸せの花。
それから祖父の形見の懐中時計と写真。
私は懐中時計を手に取り、
裏に刻まれた名前をもう一度見た。
ショウイチロウ、タエ、ナオヤ、サチヨ
戦争によって引き裂かれた家族。
当時の日本では珍しくもない出来事。
「・・・静波?」
圭ちゃんの少し寝ぼけた声が聞こえた。
私がいないことに気づいて起きてきたようだ。
「眠れないのか?」
圭ちゃんが私の顔を覗き込むようにして聞いた。
私は懐中時計に視線を落としたまま呟いた。
「圭ちゃん・・・戦争は嫌だね・・・。」
その途端、胸につかえていた感情が
堰を切ったように流れ出る。
「私は圭ちゃんとずっと一緒にいたい。
圭ちゃんと離れるなんて絶対に嫌。」
「静波・・・。」
圭ちゃんの驚いた顔を見ると涙が溢れてきた。
「圭ちゃん、ずっとそばにいてね。
お願いだから・・・どこにもいかないで・・・。」
最後の方は言葉になっていなかったかもしれない。
圭ちゃんはそんな私にそっとキスをしてくれた。
そして優しく抱き寄せて言う。
「当たり前だろ。俺だって静波と一緒にいたいよ。
絶対に離れないし、何があっても静波を離さない。
ずっとそばにいる・・・。」
この温かな腕の中に、
いつまでもいつまでも包まれていたい。
月明かりの中、私は心からそう思った。
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