第1章 思い

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翌日の月曜日の夜。 圭ちゃんが出張先の旭川から帰ってきた。 旭川は私達の住む札幌からJRで 1時間30分くらいの北海道第二の街だ。 「旭川、もう結構寒くてさ。」 圭ちゃんはそう言いながら あっという間にスーツからスウェットに 着替えたかと思うと、ビールを片手に ソファにどかっと腰を下ろした。 「あ、これお土産な。」 いつの間にかテーブルの上に お菓子が置いてあった。 「ありがとう。」 私はお礼を言ってから、 圭ちゃんの真正面の床に正座した。 いつになく神妙な顔で圭ちゃんを 真っ直ぐに見つめる。 圭ちゃんはそんな私のただならぬ様子に 気づき、訝しげに聞いた。 「な、なんだ?何かあったのか?」 「お願いがあるの。」 「お願い?何?」 「新婚旅行なんだけど・・・ ハワイじゃなくてサイパンに 変更したいの。」 圭ちゃんは驚きの余り、 持っていたビールを落とした。 まだ開けてなくて本当によかった。 「なんで今頃そんなこと言うの?」 圭ちゃんは落としたビールを拾いつつ、 憮然とした表情をしている。 呆れられるのも仕方ないと思う。 新婚旅行は絶対にハワイに行きたいと 言ったのは私だ。 2人でいろいろ相談して、 旅行の手配はもうすっかり済んでいる。 何より今日は12月4日、出発日まで ひと月もない。 「ごめんなさい。でも、どうしても サイパンに行きたいの。」 「だから理由は?」 私は黙ってバッグから水色の布袋の を取り出した。 中には三つの品物が入っている。 大切そうに包んでいる白い紙を外し、 それらをテーブルの上に並べる。 べっ甲の台に白い可憐な小花の咲く帯留め。 もうひとつの帯留めはサンプラチナが リボンのようにクロスした台に 小さな真珠があしらわれている。 そして薄いグリーンの小さな石がついた 古い指輪。 「これっておばあちゃんの形見だよな?」 「うん。それとこれを読んでほしいの。」 「何?」 「おばあちゃんの日記。開いてある ページだけでいいから。」 私は実家から借りてきた日記を 圭ちゃんに手渡した。
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