第1章 思い

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祖母が最初に入院したのは、 私が高校2年生の時だった。 その日、私は学校帰りにお見舞いに行った。 祖母は4人部屋の窓際のベッドで、 体を起こしてテレビを見ていた。 「あら、静ちゃん。おかえり。」 「ただいま。具合はどう?」 「もう大丈夫だよ。」 私は買ってきた数本のお茶を 小さなテーブルに置いた。 「これ、飲んでね。」 「ありがとうね。 静ちゃん、ちょっと座ってくれる? 大切なお話があるの。」 「何?」 「まず座って。」 私は折りたたみ椅子を出して座った。 祖母は病衣の胸元から黄色い布製の 小袋を取り出した。 「静ちゃん、これ覚えてる?」 袋の色は違うが、それが何かすぐわかった。 小学校低学年の時、祖母が肌身離さず 持っているその袋の中身を 見せてもらったことがあったからだ。 祖母は袋から三つの品を取り出し、 テーブルの上に並べた。 「覚えてるよ。おばあちゃんの宝物だよね。」 「そうよ。今のうちに言っておくわ。 もしおばあちゃんに何かあったら、 これは静ちゃんが持っていてね。」 「私が?」 「ええ。前にも言ったかもしれないけど、 これはおじいちゃんがくれたものなの。 白いお花の帯留めは結婚する前に、 真珠の帯留めと指輪は結婚してから。」 祖母はいつになく華やいだ笑顔を浮かべた。 「高価なものじゃないけど、 おじいちゃんの気持ちがとても嬉しくてね。 おばあちゃんの幸せがいっぱい詰まってる物だから、 静ちゃんに持っていてほしいの。おじいちゃんが きっと静ちゃんを守ってくれるよ。」 「うん、わかった・・・。」 その時は何だかピンと来ず、 ただそう答えただけだった。 そして祖母の葬儀後、形見分けで そのお守りは本当に私の下にやって来た。 それはこの世で祖母が愛し、愛された証。 私もずっと大切にしていくつもりだった。 でも。 祖母の最後の日記を読んだ時、 私の心をふとこんな思いがよぎったのだ。 これが私の手もとに来たのには もっと深い意味があるのかもしれないと。
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