第六章:愛の調べが聴こえる

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 部屋の中は、あいかわらず人の気配がなく、外気と同じくらい冷え切っていた。暗がりを大和の手を引いて歩き、階段をあがる。自分の部屋の明かりをつけ、部屋の暖房をつける。 「そのへんテキトーに座って」  大和を残し、冷蔵庫から片手鍋に牛乳を注ぎ、電子レンジで温める。ほどよく温まったところで、マグカップ二つにうつし、それを持参して再び部屋に戻ると、大和は脱いだ革ジャンを腕に抱えたままで、立っていた。 「座れって」  二人でベッドの上に並んで座る。大和は、手渡したマグカップを両手で持ち、ふぅふぅと息をふきかけて、啜っている。英明も同じようにマグカップに口をつける。ホットミルクを啜る音だけが部屋に響く。 「牛乳、今でも好き?」 「好き」 「そっか」  思えばこうして二人、会話をするのも久しぶりだ。昔はどんなことを大和と話していたのだろう。  昔は、何を話そうだなんて考えることなんてないくらいに話題が尽きなかった。今はこんなにも緊張する。そして聞きたいことは山ほどあるのに、何から切り出せばいいのか、わからない。 「驚いたか?」 「何?」 「俺がリョウの弟だって知って」  大和は、首をゆっくり横に振った。 「ていうか、いつ知った?」 「すぐ」 「すぐ!?」 「弟、この学校にいること知ってた。あとクラスの子。話してた。英明のこと」 「え? マジで?」  確かに英明の兄がそこそこ有名なバンドのギタリストであるということを、知っている人間は少なくはない。ただホープスを知っているか、いないかで、その情報は価値が変わる。 「リョウはギターうまい。英明は頭がいい。すごい兄弟だって」  もしかすると英明が伊藤に頼まれて話しかけた頃には、もう大和は知ってたのかもしれない。
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