第六章:愛の調べが聴こえる

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「兄さん、春には会社員として働くんだって。俺を進学させるために」 「……」 「だからおまえの好きなリョウが辞めるのは、俺のせいなんだ。おまえだけじゃない、ホープスファンの人たちにも申し訳ない」 「そうでもない」 「いや、そうだろ! いっそのこと、おまえのせいだって言ってくれないか? そのほうが」 「違う。リョウの音楽、なくならない」  大和の言葉はとても落ち着いていた。 「へ?」 「英明、違う。リョウはたくさんの音楽作った。みんな忘れない」 「でも……」  英明の目元にじわりと涙が浮かんだ。大和はまるであやすかのように、その涙を指で拭った。 「泣くの、だめ。僕が英明を泣かさない」 「は? なんだよ、それ」 「楽器屋、メンバーの健一が来た」 「健一くんが?」 「仲良くなった。ギター褒めてくれた。リョウのこと聞いた。今日のチケットもらった」 「なるほど、そういうことか」  今日の関係者チケットの謎は解けた。そして、大和のギターを褒めたということは、あのテクニックも、すでに健一の耳に入っているということになる。 「僕は、オーデション受ける」 「オーデション?」 「ホープスのサポートギター」 「え? それってリョウの代わりってこと?」  大和は力強く頷いた。そして、持っていたマグカップを床に置き、英明の両手を包むように顔の前に持ち上げた。 「僕は英明のために、リョウの居場所を守ります」 「は? 何言って……」 「いっぱい練習する。そしてリョウが戻ってくるまで、僕が守る。だから英明は泣かない」 「何それ、俺のためってこと?」 「僕のため。英明のため。ね?」 「本気で言ってんの……?」  大和は笑顔で、再び力強く頷いた。けれど大和ならやれる気がした。絶対に約束を守る、そんな目をしていた。泣かないで、と言われても、大和が自分のことを思って、決めてくれたと聞いたら、嬉しくてたまらない。再び滲む涙に、大和は寂しそうな顔をして、英明の体を抱き寄せた。 「大丈夫。大丈夫」 「ありがとう……おまえならできる気がする」 「まかせて」  英明の涙が止まるまで、大和は英明の背を優しく撫でてくれた。  大和は、英明よりも早く現実を受け止めていて、そして前に進んでいた。今、自分が何をするべきなのか、考えていた。英明には大和のほうが、うんと大人にみえた。
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