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確信
ニンデンブルクの街角に、正午の鐘が響き渡る。
この日、町長の遊説に伴い、官吏百官が送迎やら段取りの確認やらで庁舎を忙しなく行き来していた。
部局を跨いでの催しに現場は多少の混乱こそあるものの、もはや年中行事と化しているだけに皆なんとか取り回していくのであった。
そんな折、税務補佐官コナルチェフのエフンという咳払いが、中年担当官の背筋をゾワっとさせた。
「マルコフさん、昼休みが終わったらすぐ出るんだから、早く準備してよ。」
マルコフは、こめかみの辺りに熱いものを感じながら、震えそうになるのを抑えて、
「コナルチェフさん、今からやるところでしたが」
と、自分よりもやや若い上司に対し幾ばくかの遺憾の意を込めて返答した。しかし、思っていたより遥かにか細く小さな声が発せられたため、余計に動揺してしまった。
それを聞いたコナルチェフは、にやっと笑いを含んだ面持ちを隠さず、ああそうかい、とあっさり席へ戻っていった。
マルコフは胃に熱いものを感じながらも今日の段取りを紙面で確認した。
準備を急かされるのも無理はない、町長や御者が乗り込む馬車の手配こそがマルコフの役目であった。徴税のために用いる公用の馬車が常に税務課には配備されており、今日ばかりは華やかに装飾され町内にお披露目されるのであった。
昼食などとっている暇はない。
「俺たちが乗るときは見窄らしいボロだってんのに、乗る人間が変わればこうも洒落た装いしてもらえるってんだからな、どうもな」
税務補佐官コナルチェフが悪意を表出するも、マルコフは
「俺は馬車すら使わせてもらえず徒歩で徴税だってんのに、どうもな」
とつまらない嫌味を心中で吐露するのであった。
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