何様?

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 バックヤードで休憩していると、売り場の方から怒声が聞こえた。 「うわっ。なにやってんだよ、このバカ」  慌てて飛び出ると、レジの前で若い男の客がアルバイト店員を睨んでいた。声は客のものらしい。 「どうしました?」  声をかけると、「誰?」と今度はこちらを睨む。 「店長の美馬と申します」  ちょうどよかったと言って、男はレジカウンターの上を指さした。 「バイトの奴がさ、おでんの汁をこぼしやがったんだよ」  見れば白い天板の上におでんの容器があった。そのそばに、ほんの少しだけ茶色い液体がたまっていた。私なら、いや、ほとんどの人は気にならない程度の量だろう。それでも客の指摘を否定するわけにもいかず、 「それは申し訳ございません」と丁寧に頭を下げてから、 「お召し物が汚れたようなことは?」  恐る恐る訊ねると、男は「ないよ」と不貞腐れた表情を浮かべた。  ホッと胸をなでおろし、アルバイトに指示を出す。 「じゃあ、新しいおでん、用意して差し上げて」 「はぁ?」と言ったのは客だ。  なんだと思って見ると、男は絡むような視線を向けていた。 「それですむと思ってんの?」 「と、申しますと?」 「だから、客に迷惑かけたんだよ?もしかしたら火傷だってしたかもしれないし。もっと他に何かあるでしょ。お詫びの仕方が」  彼の視線はちらちらとカウンターの上へと泳ぐ。その先には買い物かごがあった。お酒やおつまみがどっさり入っている。  まさか買ったものをただにしろと言っているのではあるまいな。それなら図々しすぎる。何様のつもりだ。おでんの汁をこぼしただけなのに。  
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