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一章 Voice・本編
-1-
昼休みのことだった。そいつは、不意に声をかけてきた。
「……お前、めっちゃいい声だなぁ」
と。
それはもう目をきらきらと輝かせて。
生憎だけど、俺はそんな反応、見飽きている。
「あ? お前、誰?」
不機嫌にそいつに尋ねる。
「俺、3年1組の宮本響(みやもとひびき)。合唱部の指揮やっているんだけど、お前、一緒にコーラスしない?」
俺の不機嫌さなんかまるっと無視して、そいつは明るくそう言った。
「今日の音楽の授業でパート分けの為に、お前のクラス、一人ずつで歌わされていただろう? その時、ちょうど廊下通ったんだけど……。お前、めっちゃめちゃ俺好みの声してた」
と、響は言った。
「……」
俺は張り付かせた笑顔で
(俺好みって……何?)
って考えてた。
うちの高校には、文化祭プログラムの中に合唱コンクールなんてある。
大の高校生が、なにが悲しくてそんな事をするのかと思うのだろうが、学校の教育方針だそうだ。
なんでも、クラス一丸となって取り組むと協調性だの思いやりだのが育まれていいとかいう理由で、文化祭には何かしら各クラスで一つのお題に向けてやらされていた。
取り組むものは学年で決まっている。一年生は劇、二年生は器楽演奏、そして三年生では合唱。
そういう訳で今日の四時間目・音楽、担当教師の藤原奏子先生がパート分けをする為に、クラスのみんなに課題曲の触りの部分を歌わせた。その時の俺の声をたまたま聞いたと、そいつは言った。
ご丁寧に音楽室を覗き込んで、俺の顔まで確認したそうだ。
「藤原先生に聞いたんだけど、お前、音域広いんだってな。『テノールでもバスでも行ける』って誉められてたじゃないか」
自分の事のように響は嬉しそうに言い、俺の顔を覗き込んだ。
やたらとフレンドリーに人の間合いに飛び込むこいつは、身長一八〇㎝の俺より五㎝ほど低い。短めの真っ黒いまっすぐな髪の毛が、こいつの無邪気で正直な性格を表しているかのようだ。
「お前、名前は?」
「……佐々木勇音(ささきゆうと)……」
下から見上げる響の屈託のない笑顔に引き込まれて、答えるつもりなんかなかったのにうっかり名前を答えてしまうと
「へえ、名前もかっこいいんだな」
と感心したように言った。
(なんというか、こいつ……)
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