一章 Voice・本編

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 宮本響は、まるで全世界の全てがこいつの味方、自分の敵なんかいない……そんな自信に満ちた笑顔の持ち主だった。  かくいう俺は怖いものだらけだった。  だから、尚更そいつの笑顔に惹かれたのかもしれない。 「それだけの音域を出せるんだ。それ相当の訓練をしたんだろ?」 (訓練……) 「……いや」  俺は無愛想に答え、 (こんな奴に構っていられるか)  と、その場を後にした。  宮本響は、思い立ったら即行動……の男らしかった。  放課後、俺のクラス・三年三組の前で待ち構えていた。そして教室から出てきた俺を見つけるとその手をがっしりと掴んだ。  声をかけるのも不意打ちなら、行動もそれ。  俺は響の行動に虚を突かれ、あっさりと捕獲された。 「おいっ?!」  驚く俺を後目に 「まあまあ」  と例の無敵の笑顔で、一八〇㎝もある巨駆の俺をずるずると引っ張って行く。  なんという怪力。 「おい! お前、宮本っ!? 一体、何なんだよ?!」  引っ張られながらでは体勢も整わず、不格好な姿勢のまま俺は尋ねる。 「あ、ごめん。俺の事は『響』って呼んでくれ。うちの学年に同姓の従兄弟が居て『宮本』と言われると、俺かそいつか、区別つかなくてややこしいんだ」 (そんな、てめえの事情なんか知るか!)  と思いつつ 「とにかく、痛ぇ! 引っ張るな!」  と言うのが精一杯だった。  響の方は、そんな俺の事なんか全くお構いなしに 「痛かったら、しっかり自分で歩いてついて来たらいいだろ。どうせ、手を離すと逃げるくせに」  見透かしたように言う。もちろん、そのつもりだったけど。  その上 「今度の合唱コンクールの歌に、男子のソロパートを考えていたんだ。そこ、お前にぴったりだと思わないか? 是非、頼みたいんだよ」  ぺらぺらとまたもや自分の都合を語り始めた。 「お前の声、もうマジ理想! 最高! 絶対に歌って欲しい!」  と絶賛され、俺は複雑な思い。褒められて嫌な奴は居ないが、俺の場合、ちょっと歌には……歌声には思うところがあったからだ。  だが府に落ちない事がある。 「なんの権限があって、学生のお前がそんな事やってんだ?」  部活の課題曲にソロパート設けるとか勝手に決めたり、そんな重要な所を部員以外の奴に突然任せたりだとか、学生が勝手にやっていいことではないと帰宅部の俺にだって分かる。
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