一章 Voice・本編

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 俺の手を握ったまま、そのまま練習してる所にずかずかと入っていく。  それどころか、入りしな 「そこ……上からの二段、右から四番目の女子。ちょっとテンポずれてる。えっと真ん中あたりの男子の声……は、平田か? 音が落ち気味だ。口形に気をつけて、もう半音ほど上げて歌ってみて……。って言っても、男はどうしても高い音は出ないから、な。高い音の時は無理せず柔らかく声を出すようにして。口さえしっかり開いてれば、ある程度音が下がるのを防げるから」  などと、てきぱきと指導めいた事をしていく。 (あれ……)  歌の雰囲気が変わった。  なんというか、さっきもかなりの美しさを纏っていたのだが、より丸みを帯びたというか雑さが消え、洗練されたまとまりを見せている。 「休符もしっかり捕らえて。休符も音符の内だからな。知ってると思うけど、あの有名なベートーベンの『運命』。あれ、出だしの休符がなかったら、今のようなメジャーな曲にはならなかっただろうって噂もあるくらいなんだ。ま、楽譜通りに……つーか、作曲者の意志をしっかり尊重しよう、な」  あの無邪気な無敵な笑顔で言う。 (なんだよ、コレ)
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