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歌っているもんだから返事はできないものの、部員達も笑顔で応える。
(すごく居心地いい……)
初めて来た練習の場なのに、しかも無理矢理連れてこられたというのに俺は、もうずっと前からここにいたようなそんな所属感を味わっていた。
俺が逃げ出さないと分かると響は手を離し、そのまま部員達相手に指揮というか指導をし始めた。
そして、練習が一段階落ち着いた所で、指揮壇から降り
「どうだ? やる気、出たか?」
と響が聞いてきた。
「……いや」
俺が言うと
「強情だな。そうは見えなかったけど?」
微笑みながら、そう言った。
確かに俺は聞き惚れていた。
うちの高校の合唱部のレベルが高いのは知っていたが、これほどとは。
「部員が納得しないだろ? 宮も……」
「響!」
「……響」
そうそう、と響は頷く。
「響。何で、そんな重要な所を俺なんだ?」
俺は聞いた。
正直、断る理由がなくなりつつあった。
(居心地いいあの場所……。俺の声が、生かせる場所……)
俺は子供の頃から、声がいいと言われていた。
歌を歌えば、近所のおじちゃんおばちゃんみんなから誉められていたし、俺自身も凄く楽しかったのも覚えている。
(でも、歌は……)
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