一章 Voice・本編

6/92
前へ
/112ページ
次へ
 いつしか歌うことを禁忌にしていた俺は、戸惑っていた。  誰に誘われたって、カラオケにはもちろん行かない。歌うのは音楽の授業のみ。  それが、さっきの合唱部の歌を聞いた時、なんだか昔のあの歌が大好きだった頃の懐かしい気持ちを呼び覚まされたような、そんな感覚だったから。このまま響や合唱部の連中と一緒に歌いたいような、そんな気に駆られていた。  だが突然連れてこられて、この凄い集団の中で 「俺、ソロやります」  なんて烏滸がましいこと、言えるか? (大体、失敗したらどうするんだ。ソロだぞ、ソロ。一人で歌うんだぞ。誰かのフォローが望めないんだぞ。責任重大じゃねえか。その場の雰囲気に流されねえぞ、俺)  などと思っていたら 「いや、多分納得するよ。みんなは」  と響は (なんだ、気にしているのはそんな事か?)  みたいにさらっと言う。 「な、みんな?」  響が声をかけると 「部長が言うんなら、いいんじゃないですか?」  女子部員の一人が答えた。休憩に入ってその女子と喋っていた周りの女子も、 「そうだよね。部長が言うんなら、間違いないよねー」  うんうんと頷く。 「驚いたでしょ? 部長の耳」
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加