一章 Voice・本編

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 女子の一人が俺に話しかけてきた。 「ものっっっっ凄く、いいの。誰が音出せていないとか、テンポずれているとか、瞬時に聞き取れちゃうの。まさに『神の耳』だよねぇ」  うっとりと言う。 (なんだ、このカリスマ性)  そのカリスマ性もあってか、部員達は素直にその指摘に合わせ自分を修正する。だからあんなに歌がよくなるんだと素人の俺でも分かるけど。 「でも、同じ高校生だろ?」  なんでそんな奴の言うことを聞けるんだ? 「あれ? 知らないんだ」  と驚いたように女子。 「部長は、あのエヌ響指揮者・宮本和先生の息子さんだよ。お母さんはバイオリニストの宮本真綾さん」  とその女子は言った。 「従兄弟の拓人くんも、相当いい耳してるって言うし」 「三年二組の宮本拓人君だよね? 拓人君も、オケ部で指揮してるんだよ」  ああ、響の言ってた同学年のもう一人の「宮本」か。 「ねえ。それ、元は響部長がオケ部の指揮者だったって話だけど……?」  と一人の女子が言うと、 「しっ!」  他の女子が自分の口に人差し指を当てた。 (何だ? 今の。『黙れ』って意味だよな)  俺は不思議に思ったが、その時は特に気にしなかった。  別の女子が 「ち……、『血』だよねー」     
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