目覚める。

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 彼女が南海電気鉄道南海本線みさき公園駅を訪れたのは、単刀直入に言うと供養の為である。 尤も、人間でも動物でもなく電車の供養。 かつてみさき公園構内に保存されていたその電車は、彼女の来訪を待たずに電車の冥土へと旅立ったのだ。 南海電鉄20000系電車。 高野線で活躍した20000系電車はデラックスズームカーと呼ばれ、利用客そして私鉄ファンに親しまれた特急電車である。 彼女が師匠と崇める男性の話に拠ると、公園の一角にある『くの字』に曲がった植え込みと、地面から微かに覗く半ば朽ちかけたコンクリート製の枠とが、かつてそこに電車が保存されていた事を現在に伝えているとのことであった。 因みに彼女の師匠、かつて南海電鉄で実際に使用された電車のカットボディが展示されている、わくわく電車らんどの情報も彼女に教えてくれている。 「サザンやラピートもいいけど、デラックスズームカーも好き。 絶対師匠の影響ね」 往来の邪魔にならない場所まで移動し、うーんと大きく伸びをしながら彼女。 難波から急行電車で約1時間の旅は、疲れるという程ではないが伸びの1つでもしたくなる距離なのかもしれない。
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