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「そうなんだよー、半月前に婚姻届出しに行ったら、偶然、窓口に橘がいてさー、な、橘」
「あぁ」
瀬戸だって25歳だ。
結婚していても、子供がいてもおかしくない。
おかしくは、ない。
「あれ、橘くん、大丈夫?」
しばらくして、トイレに行くために席を立つと、
クラスメイトに呼び止められた。
「・・・大丈夫」
「ホント?なんか足元、フラフラしてるよ」
「・・・っ」
その女の言ったことは、本当だった。
あれからペースを上げたせいか、
いつも以上に酔っていた。
酒は弱くないはずなのだが、
足元がおぼつかない。
「トイレまで、肩貸そっか?」
「や、別に・・・」
「遠慮しないで!あたし、介護の仕事してるから、結構力あるんだよ」
そう言って、女は俺の肩に手を回す。
抵抗しようにも、力が入らない。
別に、いいか。
トイレに行くだけだ。短い時間だから――
「ごめんね、斎藤さん」
突然、別の誰かに腕を引っ張られる。
「・・・・・・ぁ」
せ・・・と?
「橘くんは俺が連れて行くよ。女性よりは男性の方がいいでしょ?重いし」
「そ、そう?なら、瀬戸くんにお任せしようかな」
「うん」
瀬戸は俺の肩を担ぐと、ゆっくりと歩き出す。
酒のせいで気分が悪いのと、
瀬戸に触れているせいで鼓動が早いのと、
さまざまな要因が、俺の身体を蝕む。
頭も身体も、混乱していた。
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