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礼をして、立ち上がろうとして思いとどまる。
15年も働いているこの人なら、知っているかもしれない。
「あの、望月先生」
「ん?」
「先生は、藤原先生が教育実習を受けていた頃のこと、覚えていますか?」
「もちろん。彼も変わったわよね。あの頃と比べると」
「変わった?」
「そうよ。あの頃はすごく暗くてね。生徒とも他の教育実習生徒とも打ち解けていなかったし。
だから教師になったときの変わりように驚いちゃった」
「・・・そうですか」
『あのときの俺は感情を無くして荒んでいました』
あのときの藤原の言葉に、嘘はなかったようだ。
本当にあいつは昔、荒んでいたんだ。
「なんていうか、今のあなたをもっとダークにした感じ?
そういえば、あなたと藤原先生ってなんか似てるわね」
「え?」
「今のあなたは昔の藤原先生みたいで、今の藤原先生は昔のあなたみたい!」
思いついたのが嬉しかったのか、望月先生のテンションがあがったようだ。
しかし逆に俺は動揺していた。
あの明るくて人懐こい藤原が、
今の俺のように感情を殺していたことまで、事実とは。
「でもきっと、あなたが藤原先生を変えたんでしょうね」
「・・・え?」
「だって藤原先生、結構あなたのこと目で追ってたし」
目で追っていた?
藤原が・・・俺を?
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