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「それに、最終日にあなたに頭を下げている藤原先生を見かけたから。
あの藤原先生が頭下げてる!ってびっくりした記憶があるもの」
頭を・・・
そういえば、以前かすかに思い出した藤原の姿。
『・・・ありがとうございます、堀江先生』
深々と礼をする、藤原の姿。
「・・・っ」
「え?ちょっと、大丈夫?」
「いえ、少し頭が痛いだけです。軽い頭痛なので」
突然、頭が割れるように痛み出した。
まるで、そのときのことを思い出すのを阻止するように。
「・・・人間の脳って、もっと上手くできていればいいのにね」
「どういう・・・ことですか?」
「だって、嫌なことと一緒にいいことも忘れるなんて、悲しいじゃない」
「・・・・・・別に、かまいません」
望月先生の言いたいことは理解できる。
もし俺が、そのときの藤原を覚えていたら、
きっと藤原との付き合い方も変わっていただろう。
しかし、あのことを過去のことにできたからこそ、今の自分がある。
俺は教師を続けられるんだ。
そのとき、胸ポケットの携帯電話が震えだした。
手に取り慌てて立ち上がる。
「すみません、望月先生。手当てしてくだってありがとうございました」
「いいのよ。また話そうね」
「はい、失礼します」
保健室を出て電話にでようとすると、振動が止まった。
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