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1.
太陽の光がぼんやりと見える朝のことです。
人間が踏み入らない山奥のさらに奥、ふかふかとした雪の間から、一匹のまあるいうさぎが顔をだしました。
宮城県の名産、笹かまぼこのようなかわいらしい耳をぴるりとふるわせ、雪をはらうと、あたりにバニラの香りがひろがりました。まあるいからだを雪のうえへだすと、バニラの香りがいっそうひろがります。
このうさぎは「冬うさぎ」とよばれ、あたたかそうなふっくらとした毛並みを持ち、バニラの香りをまとっています。白い色をしていますが、よく見ると、さまざまな雪の結晶のもようになっています。
そんな冬うさぎは、お空をぐるりと見わたして、小首をかしげます。
立春もすぎたというのに、太陽の輝きは鈍く、お空もすこし暗い青色に見えます。冬うさぎは視線を雪の上に戻して、周囲をうかがいます。いつものこの時期であれば、雪もすこしずつ溶けだして、木々の葉についた雪の雫がきらきらと輝いているはずです。しかし雪は溶けだすことなく高々と積もり、木々のうえにもこんもりとのこっています。
そういえば、と冬うさぎは思います。
自分のからだがいつもより大きいこと、そして春を告げる「春うさぎ」のすがたがありません。気配も感じられないのです。
いつもねむたそうにしている春うさぎですので、またねぼうでもしているのかと、冬うさぎは一路、春うさぎのもとへむかいます。手土産に酒まんじゅうと、雪のしたで育ったきゃべつも忘れません。住処を空けるので、首にちいさな赤い鈴をつけていきます。これでどんなに雪が降っても、自分の住処に帰れます。
いざ! 春うさぎのもとへ!
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