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「こっち見て話して。」
きっぱり言い放つと、「へいへい…」と愚痴りながら、ゆっくり腰を上げ、こちらの方へ座り直した。
「委員長サマは人遣いが荒いなぁ」
小馬鹿にしたような態度でにやりと笑う、この男子生徒の名前は蒼野。
下の名前は、誰も呼ぶのを聞いたことがない。
「荒いどころか探しにきてあげたんだけど」
疲れからか、つい口調が刺々しくなる。それがおかしいのか蒼野はまだ奇妙な笑みを残したままだ。
「ご苦労様です」
また後ろを向いたかと思うと、置いてあった鞄をずるずると引きずって、ジッパーを開けた。
三本くらい入っているペットボトルの内、満タンの爽健美茶を取り出して、
「…」
流れ落ちる水滴を青いハンカチで吹き始める。
私は蒼野を見下ろしたまま、蒼野は地べたに胡座を掻いたままで。
二人の間にはボトルを拭く小気味いいキュッキュという音だけが響く。
「はい、蒼野君ご発見、おめでとう」
自分で飲むもんだと思っていたそれが、私にずいっと差し出された。
…とりあえず両手で受け取っておくことにする。
すると彼はコーラを取り出して、ゆっくり飲み始めた。
なんだか気まずいので、私も手早くキャップを外して爽健美茶に口付ける。
皮肉にも蒼野を探すのに校内を走り回って喉はカラカラで、ほんの僅かだけ心の中で感謝してしまう。
___…そもそも元凶はキミなんだけど?
その言葉はお茶ごと飲み込んだ。
「うっ…く、ゲホッ、ゲホッ」
見ると蒼野はコーラで思いきり咳き込んでいる。半分ほどになった爽健美茶を置いて背中を叩いてやる。
「すまん」
恨めしい目をしてコーラをしまった。殆ど減ってない。私の視線に気付いたのか蒼野は俯きがちに、
「オレ…炭酸ムリなんだよ」
とぼやいた。
「じゃあなんで…?」
「貰ったの」
吐き捨てるように返し、鞄のジッパーを締めると蒼野は、ふと渡した爽健美茶を見て目を丸くする。
「はっや。吸引力すげぇ、掃除機みたいだな」
「なにそれ、掃除機って何?だって喉乾いて…って、そうじゃなくて」
つい蒼野のぺースに巻き込まれていた私は、秋風にはたかれて用を思い出した。
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