アメジストの言葉

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 夫の正人はイラストレーターという、そんな私とはかけ離れた仕事をしている。元々合コンで知り合った彼は、特別アニメとか漫画とかを見ない私の『イラストレーター』の概念を大きく覆してくれた。  彼はそういうタイプの絵も描くけれど、普通の企業向けのちょっと違う絵柄も描く。要するに絵なら何でも描く何でも屋だ。今は企業向けの、いわゆる漫画絵風ではない仕事のほうが多いらしい。私にはよく分からないけれど。  問題は正人は家でやる仕事ということである。  そして私は残業が多いということである。  従って我が家の家事はすべて正人が行っている。これは結婚前、同棲時代からのことだった。同棲しようと言う彼に、実家暮らしだった私は「家事ができない」と言った。そうしたら「全部俺がやるよ」と返ってきた。まさかねと思いながら同棲を始めてみたら、彼は本当にすべての家事をこなした。掃除炊事洗濯なんでもござれ。高校のころから寮に入っていたりと、一人で暮らすチャンスが多かったらしいとは言え、これには驚いた。  正人はにこにこと言った。「こういうのは得意な方がやればいいよ」。  私はその通りだと思ったので、結婚して以降も正人に任せっきりだ。正人からするとこういう作業の最中からも仕事のインスピレーションを得るからいいのだそうである。ますます適役というやつだ。     
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