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アメジストの言葉
「あんたって、誠実じゃないよね」
と、そうぬかしてくれたのは、幼なじみの岡本倫だった。
「ほんと、あんたの旦那よく我慢してると思うよ。私だったら耐えられないかも」
「……そんなつもりは」
「分かってるよ、有紀は自分に素直に生きているのよね。でもそれが他人に対して誠実かどうかは別だわ」
昔から倫は私に厳しい。常に私は自己中心的だと、そう言い続ける。
そんな私が二十三歳で結婚相手を見つけたとき、倫は大層驚いたものだ。「そんな物好きいたの」って。
結婚式で初めて私の旦那と話したとき「納得した」と呟いていたけど、よく考えたら何を納得したのだろう。
私、坂本有紀。二十五歳。結婚して二年経つ。
その間、夫の正人とは一度も喧嘩をしていない。正人はいつもにこにこおおらかで、私のすることに寛容だ。
私はキャリアウーマン。マーケットリサーチャーの仕事をしていて外回りが多い。ちょっと小さい会社だから残業も多いし休日出勤も多い。
ただ、お給料はそんなに悪くないし、私はこの仕事が嫌いじゃない。
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