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突然の話に、つい驚きの声をあげる。
「うん、なんだかそっけないというか…そういえば、最近変な噂も流されてたっていうか…もしかしてそのせいで勘違いされてるのかな」
「変な噂?」
「あー…なんか、」
タマムは頭を掻きながら、言い辛そうに言葉を紡いだ。
「俺が二股してるーとか、この間そんな噂を流されてるって、同級生から聞いた」
「先輩彼女いるんですか!?」
机を叩きつけて勢いよくエーデは立ち上がった。
「え。いないよ、どうしたの」
突然の彼女に行動に苦笑いしながら返答するタマム。
そこでエーデは、ハッとした。いけない、これではまるで私が先輩のことを好きみたいではないか。
顔を真っ赤にしながら、エーデは慌てて手を左右に振って反論した。
「えっ、あっ、そ、そんなわけないじゃないですか、じゃ、じゃなくて、いや、その、先輩の色恋沙汰聞いたことなかったので驚いちゃいました、あははー」
「色恋沙汰じゃないって、変な噂」
「あっ、あ、そうでした」
あはは、と乾いた笑いをしながら、エーデは頭の後ろに手をやる。
私としたことが…――。
恥ずかしさで死にそうになっていたところで、一方タマムは手元の本に一瞬目をやってから、本を閉じた。
「あ、本、読み終わったんです?」
「うん、エーデちゃん来たとこで、あとちょっとだけだったんだよね」
「そうだったんですか」
じゃあ、先輩はもう帰るのかな…―――そんな予想をして、少し寂しい気持ちになった。
タマムは閉じた本を鞄の中に仕舞った。しかし、一向に席を立とうとはしない。
疑問に思って、エーデは思わず質問をしてしまった。
「せ、先輩」
「うん?」
「帰らないんですか?」
「いや、もうちょっと居ようかなと思って」
そう言って、タマムは頬杖をつきながら、窓の外の緑に目をやった。
その物憂げな横顔に、どきっとしてしまう。
―――もしかして、もう少し私といたいからなんじゃ。
なんて考えが頭によぎった。
いけない、いけない。自分の都合のいいように考えるもんじゃない。
でも…―――。
そう思いながら、もう一度彼の横顔をちらっと盗み見る。
「……」
このひとときを堪能しよう。エーデは心の中でひとり、そう思った。
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