Ⅴ 春、再び

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「田中さん、見積もりできた?」 「田中さんー経費承認してほしんだけど」 「田中さーん、パソコンフリーズした、 どーしたらえぇのぉー涙?」 「田中は、1人しかおりません!!!」 鈴は机を、ばんっと叩いて 一つずつ要件を片付けていく。 「国田さん、見積もりは先ほどメールで お送りしています」 「木崎さん、経費承認は所長の仕事です」 「東堂さん、フリーズしたら強制終了してください」 神奈川事業所に異動して 4年目の春がきた。 すっかり職場にも馴染み 所長の留守を守るおかんのような 立ち位置になってしまっている。 「田中さん、ノートの在庫どこやっけ?」 「右から2番目のキャビネットの下です!」 覚える気ないんだから。まったく。 鈴は心の中で呟いた。 大曽根部長との一件で異動したものの もう神奈川での仕事生活の方が長くなってしまった。 東京本店はあらゆる部署が集結しており 数百人のスタッフが働いていたが 神奈川はそんなことはない。 出先の営業所、という雰囲気で 人数も15人弱とこじんまりした事業所だ。 鈴は窓から見える海を見ては ここに来れてよかった と思う。
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