Ⅰ 春

2/6
前へ
/81ページ
次へ
桜がまだ咲き誇る季節、 田中鈴は、大曾根部長の着任挨拶を見た その瞬間に恋に落ちた。 大きな身長と、広い背中。 シワ一つない、濃紺のスーツ。  「大阪事業所からこの度、 営業部に異動となりました、   大曾根翔です。よろしくお願いします」    まばらな拍手が6Fに響き渡った。 鈴は何を考えるでもなく、 これから上司になる大曾根をじっと見つめた。 すると、ふいに、大曾根部長と視線が交わった。 慌てて会釈をする。 大曾根部長は驚きとはにかみが混じった表情で、 会釈を返してくれた。 笑うと少しだけ、部長の目じりにしわが入った。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

895人が本棚に入れています
本棚に追加