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「大変申しわけありませんでした」
青年は腹の前で両手をそろえ、深々と頭を下げた。しかし内心では舌打ちをし、愚痴を漏らしていた。チッ。たかがスプーンと箸を間違えただけでうるせえな。家にあるスプーンを使ったらいいじゃないか。
もちろん言葉にはしなかったが、老人は青年の心を見透かしたようにぼそりとつぶやいた。
「誠意が足りんな」
青年は頭を上げ、困惑した表情でぎこちなく店内を見まわす。まるで助けを求める子羊のごとく。
ふと先ほどの立ち読みをしていた少年と視線があう。好奇のまなざしが青年にまとわりつく。直後、少年は罪悪感を覚えたらしく、逃げるようにコンビニを出てしまった。
また、他の店員を呼ぼうにも先輩の店員は飲料棚の陳列に入ったきり戻ってこない。きっと裏でサボっているのだろう。
もういっそのこと、うしろにある防犯カラーボールを投げつけてやろうか。そんな衝動に襲われかけたときである。
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