その矢印の向かう先

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[22:03]コンビニ店員 鈴木の場合 よかった、今日もいた。 この時間のシフトに入ってまず確認するのが雑誌コーナーだった。今日も高橋さんはいるだろうかと必ず確認する。 俺が二十二時からのシフトを選ぶ理由は彼女がこの時間にこの店をよく利用するからだ。時間を潰しているのか、数分ファッション誌を立ち読みして、その後コーヒーとデザートを買っていく。 人の顔を覚えるのは得意だし、常連さんは割と覚えているほうだと思う。だけど彼女は特別だった。美人だし、丁寧だし、礼儀正しいし、覚えるなという方が難しい。 そんな彼女の名前を知った理由は、コンビニ受け取りの荷物があったから。勝手に見たわけではなく、受け取りには名前の確認が必要なので、これは仕方ないこと。とはいえ役得だ。 名前を知ったからといって何かあるわけではない。単純に気分の問題だ。荷物受け取りはあの一回限りだったけど、自分がレジの時で本当にラッキーだったと思っている。 高橋さんがいるときは、つい彼女の方を見てしまう。もちろん仕事には支障ない程度に。そうしていると、あることが気になった。 彼女は本当に雑誌を読んでいるのか、というか、雑誌ではなく、窓の外を見ているのではないかということだ。 まるで探偵が遠くの何かを探しているように、決して見逃さないように注意深く眺めているように見える。彼女はいったい何を探しているのだろう。よくここからは外が見えなくてもどかしい。 一度、スーツの男性が店内に入ってきた時に驚いたようにそっちを見て、そして落胆した顔になったことがあった。彼女が探しているのは男なのか。 自分が童顔なせいか、年上の女性に好かれることが多く、今まで付き合ってきたのもみんな年上だった。今まではこれが自分の武器だと思って最大限活用してきた。だけど今は、この童顔が少し疎ましく思えてくる。例えば彼女が探しているのが大人の男ならば、俺は幼すぎて、手も足も出せないだろう。 せめて彼女が何を探しているかわかれば……。 そうため息をつき、彼女の横顔を見つめた。
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