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「どっかの誰かみたいに、誰其構わず愛想よくなんて器用な真似、出来ないんで」
顔の横にある手を払うと、陽はその手を掴んで顔を近付けた。
その近さに顔を背けたわたしのあごを、指で持ち上げて自分に向き直らせる。
意味ありげな微笑みを浮かべる陽と、さっきからずっと鼻を擽(くすぐ)っている甘い匂いのせいで、暗くて狭い部屋の空気が、濃厚なものに変わった気がした。
「美亜、それってもしかして……、ヤキモチ?」
図星を付かれて、顔が一気に熱くなる。
「……んな訳ないでしょ。バカじゃないの?」
こんな時ですらわたしの胸は、近い距離にいる陽に対しての緊張と少しの期待とで、ドクドクとうるさかった。
それに気付いているのか、陽は小さく笑う。
そして、何をするでもなく腕を解放した。
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